1.静岡県に火山なんかあるの
火山は,地球の内部にある熱い溶けた岩石(マグマ)が地表に出てくる場所です.「そんな場所,静岡県にないじゃないか」と言う人がいるかもしれません.火山はめったに噴火しませんから,そう思うのも無理はありません.ひとつの火山の寿命は,ふつう10万年から数百万年くらいであり,噴火と噴火の間隔も,数十年から長いときには数千年〜数万年ということもあります.ある火山のふもとで暮らしている人が,一生のあいだに噴火を一度も体験できなかったということも,ごくふつうにあります.
静岡県の東半分(主として富士川より東の部分)は,日本最大の火山密集帯である「東日本火山帯」が通過している場所にあたり,3つの活火山(かつかざん,かっかざん)をふくむ,たくさんの火山があります.
2.どこにあるの
静岡県にある3つの活火山とは,富士山,箱根山,伊豆東部火山群です.「活火山」とは,「過去2000年間に噴火した証拠があるか,または噴気活動の活発な火山」のことです.現在,日本全部で86の活火山が知られています.
静岡県には,活火山以外にも,過去200万年間に噴火した証拠のある火山として,天城(あまぎ)山,愛鷹(あしたか)山,達磨(だるま)山,棚場(たなば)山,猫越(ねっこ)岳,長九郎(ちょうくろう)山など,12の火山があります.その多くは伊豆半島の山々です.これらの火山では,噴火がたえて久しく,浸食(しんしょく)が進んだため,火山独特の美しい形の大部分がうしなわれています.
3.むかし,どんなことがあったの
富士山は,火山特有と言ってもよい,とても美しい円すい形をした大型の火山です.およそ10万年ほど前から噴火をはじめ,歴史時代にも,はっきりわかっているものだけ数えても10回の噴火をしています.中でも江戸時代の1707年(宝永四年)に起きた噴火は,爆発的かつ大規模な噴火であり,たくさんの記録が残されています.数千年前〜1万年前の富士山の大規模な溶岩流の中には,富士川の沿岸や三島にまで達したものがあります.いまのJR三島駅は,この溶岩流の上に建てられています.
箱根山は,富士山よりもずっと古い50万年ほど前から噴火をはじめ,複雑な歴史をたどってきた火山です.その複雑な歴史ゆえに,山の形も富士山に比べてフクザツで,ちょっと目には火山には見えない火山です.それでも,箱根山は,富士山よりもはるかに爆発的で大規模な噴火をたくさん起こしたことのある,暴れん坊の火山です.横浜の近くまで達する火砕流(かさいりゅう)を流したこともあります.ただ,年老いたせいか,さいきん4000年間ほどは,すっかりなりをひそめています.
伊豆東部火山群は,聞きなれない名前かもしれませんが,伊東市の大室山(おおむろやま)や,1989年(平成元年)に海底噴火を起こした伊東沖の「手石海丘(ていしかいきゅう)」など,伊豆半島東部にある多数の小型火山をひとまとめにした呼び方です.大室山は,小さいけれど富士山に負けないくらい美しい円すい台形をした火山で,4000年前に一度だけ噴火して誕生しました.大室山のふもとから流れ出た大量の溶岩流は,いま私たちが伊豆高原と呼んでいるなだらかな台地をつくり上げました.1989年の手石海丘の噴火は,伊豆東部火山群でおきた約2000年ぶりの珍しい噴火でした.
4.これからどうなるの
富士山の地下では,人体には感じられないけれど,マグマの動きが原因とみられる地震が,年に数回くらい起きています.また,昭和時代前半までは,山頂ふきんで高温の蒸気がごくふつうに観測できました.今のようにおだやかな状態は,富士山が過去にたどった歴史から考えると,むしろ特殊な期間にあたります.いまここにいる私たちが生きている間かどうかはわかりませんが,いつの日かふたたび噴火を起こすことでしょう.
1978年いらい,伊東沖で毎年のように繰り返されている群発地震は,伊豆東部火山群のマグマ活動がひきおこしているものです.地震という現象が目立つために,政府の地震調査研究推進本部などから観測情報が流されることが多くなっていますが,「伊東沖の群発地震は,マグマが主役の火山活動である」という認識を忘れてはなりません.今後おきる群発地震にともなって,ふたたび噴火が起きる可能性はじゅうぶんあります.
5.火山と,どうつきあえばいいの
富士山も,箱根山も,伊豆東部火山群も,まかりまちがえば,たいへんな災害を静岡県や近県にあたえかねない火山です.しかし,最初に述べたように,人の一生にくらべれば,火山の噴火はたいへん「まれ」なできごとです.可能性の小さいものをむやみに心配するほど,私たちはヒマではありません.人生には,もっともっとほかに心配しなければいけないことが山ほどあります.
しかしながら,火山への万一の「備え」を欠いてしまうことも,また愚かなことです.とくに町づくりや防災計画には,めったに起きない地震への備えと同様に,火山災害への備えが必須です.観光への影響を心配するがゆえに,火山への備えに対して知らんぷりを決めこむ自治体が多いことは,なげかわしいことです.
観光と災害への備えとを両立させる理想的な方法は,火山を今よりもっともっと積極的に前面に出して観光に利用していくこと以外にはないと思います.おだやかな状態の火山は,私たちにたくさんの恵みをあたえてくれています.温泉は火山の熱が作ったものですし,富士山や大室山の美しい形も,伊豆高原のなだらな台地も,浄蓮(じょうれん)の滝や河津七滝(かわづななだる)などの名瀑も,すべて火山が作ったものです.このような火山のいとなみを,もっと積極的に宣伝し,自然の中に火山の造形を発見する「火山ウォッチング」を始めてみませんか.このような火山の楽しみ方が,フランスなどではごくふつうにおこなわれています.自然のいとなみを理解し,自然をいつくしむことをつうじて,自然のもつ危険性も無意識のうちに正しく認識できていることが,思わぬ災害を防ぐためにはもっとも大切なことなのです.