日本災害情報学会1999年研究発表大会予稿集

次世代に自然災害の本質をどう伝えるか
−こどもサマースクールの実践報告

How shall we transmit essence of natural disaster to next generation -Report of Schoolchildren's Summer Course

中川和之(時事通信社)・地震火山こどもサマースクール実行委員会*

Kazuyuki Nakagawa (Jiji Press Kobe Branch) and Executive Committee for Schoolchildren's Summer Course of Seismology and Volcanology*

*地震学会側委員:桑原央治(大島高校)、山崎晴雄(都立大理)、中川和之(時事通信社)、岡本義雄(大阪府教育セ)、数越達也(芦屋高校)、中丸明子(神田中学校)。火山学会側委員:小山真人(静岡大教育、99年度委員長)、早川由紀夫(群馬大教育)、山岡耕春(名大理)、相原延光(小田原城内高校)

1.概要
 1999年8月20〜21日の2日間、伊豆半島北部の静岡県函南町中央公民館、丹那断層公園、函南町農村環境改善センターなどを会場とし、一般から募集した児童・生徒を対象とした地震火山こどもサマースクール「丹那断層のひみつ」(主催:日本地震学会・日本火山学会、後援:静岡県教育委員会・函南町教育委員会)と、一般市民も対象とした関連シンポジウム(これについては静岡県、函南町も後援)を企画・実施したので報告する。本報告は、災害に関係する知識や情報をどう伝えるか、また伝えられた知識・情報を理解できる感性や知性をいかに養うかを考える上で、本学会での議論に役立つと考える。実行委員会としては、スクールに参加した子供たちは、体験を豊富に盛り込んだ楽しい1日を過ごす中で、地震や火山について、災害について考えるきっかけを得たと総括している。案内文書、準備資料、配付資料、実施状況、現地写真などの詳細な情報については、ここを参照してほしい。

2.企画目的
 阪神大震災を契機として、さまざまな角度から大規模自然災害に対する防災問題が議論され、対策も進みつつある。しかし、その基盤ともいうべき「自然の理解」という点においては、若者の理科離れが指摘されているように、前進するどころか退歩の懸念さえされる現状がある。現在の教育方法では児童生徒が生の自然に触れる機会がなかなか得られず、教科書によって与えられる既成の知識は手あかがついているとも言える。
 かたや、学校における防災教育は、年に1度の避難訓練や地震防災ビデオの上映などにとどまり、自然現象の仕組みや自然災害の本質についての理解につながる場が十分与えられていないのが現状である。
 そこで今回、地震・火山分野の最前線における研究者をインストラクターとして配し、「地震火山こどもサマースクール」を、丹那断層(伊豆半島北部)で実施した。生の自然のありのままを見て、そして考えることを、大勢の子どもたちに経験してもらいたいからである。学生や大人を対象にした巡検の延長ではなく、子どもたちが興味を持ってもらえるよう、ゲームやクイズの形式を随所に取り入れ、また一人一人が自主的に取り組める実験を導入し、楽しく学び、気づいたら知識が身に付いている、災害を引き起こす自然に対する見る目が養われているような企画を目指した。

3.経緯と企画概要
 1998年10月、地震学会の桑原央治学校教育委員長(都立大島高校教諭)が火山学会に対し、児童生徒を対象に野外における地震・火山教育イベントを企画・実施するために協力を依頼。協議のうえ両学会から委員が選出され、実行委員会(委員10人)を組織した。実行委員の構成は、研究者4人、学校教育関係者5人、社会教育関係者1人となり、それぞれ、得意分野を持ち寄って企画を練り上げることができた。
 以後、おもに電子メールを通じた議論によって計画を煮詰めていった。当初は伊豆半島と伊豆大島での合計5日間にわたるプランが立案されたが、初めての経験でもあり、無理をせずに実施できる範囲として計画を縮小。今夏は伊豆半島のみの2日間の企画として実施することになり、実行委員長を小山真人(静岡大教育)が務めた。
 函南町には、1930年11月26日に伊豆北部で272人の死者を出した北伊豆地震(M7・3)の時にずれを起こした丹那断層が地表に現れており、一部が「断層公園」として断層断面を掘り下げたトレンチを含む野外展示がなされるなど、企画に使える素材が豊富なほか、地元教育委員会が企画段階から好意的に協力をしてくれたため、実現できた。
 第1日は、児童生徒のみを対象とした「地震火山こどもサマースクール」とし、第2日に児童生徒だけでなく一般市民も対象とした「地震・火山の理解と防災教育に関するシンポジウム」を開催し、第1日めの報告会を兼ねるとともに、広く一般市民に対する地震・火山の基礎知識の普及をめざした。なお、第1日および第2日を合わせた総称として形式上「'99 地震火山・夏のセミナー&シンポジウム」を用いた。

4.サマースクール
4.1.概要
 第1日「地震火山こどもサマースクール」では、伊豆半島周辺の火山や活断層・丹那断層を題材とし、野外での地形・地質観察や室内実験をゲーム形式の対話型授業をおりまぜて体験することによって、活断層や地震・火山現象についての基礎知識を学び、大地の営みについての理解を深めることを目的とした。
 募集対象は、主として静岡および神奈川県内の小学校5年生から高校3年生までの児童生徒とし、募集人員は用意できるバス座席の制限によって40人とした。募集の広報には、地元教育委員会・博物館・静岡県防災局などのネットワークをもちいたほか、地元報道機関にも資料提供し、ホームページにも案内を掲載した。参加費用は、現地レストランでの昼食代(1500円)、実験材料費、テキスト印刷代、傷害保険料、有料道路料金などの実費として参加者1人につき2500円を集めた。会場およびバスは、地元函南町からの無償提供を受けた。地元函南町のほか、静岡県や神奈川県などから、小5−高2までの22人が参加し、小学生12人、中学生3人、高校生7人の構
成となった。
 行程の概略は以下の通りである。
08:30 函南町中央公民館で参加受付
09:00 開講式、オリエンテーション、チーム分け
09:30 伊豆スカイランの駐車場に移動し、火山地形・活断層地形の観察
11:15 丹那断層公園に移動し、断層のずれの観察
12:15 酪農王国オラッチェのレストランで昼食
13:30 農村環境改善センターで、食材を使った断層模型実験、ペットボトルの液状
化実験
15:00 地震・火山・活断層の基礎知識についての講義
16:30 閉講式の後、函南町中央公民館に移動・解散

4.2.内容
4.2.1.開講式とオリエンテーション
 開講式では、簡単なあいさつの後、互いに知らない子供たち同士の自己紹介を兼ね、できるだけ多くの人たちと挨拶をかわしてカードにサインをもらうというゲームを、公民館のステージで行った。わいわいやりながら、みんなの前でしゃべることに慣れてもらい、質問などをしやすい雰囲気作りをした。その後、あらかじめ年令を分散させた5つのチームに分け、チームごとにクイズやゲームで競い合う形式で進めた。
 中央公民館から、同町のバスに乗って伊豆スカイランの玄岳駐車場に移動した。出発前には、「富士山がどうして高くなったのか。噴火すると山頂部分が吹き飛んでしまいかえって低くなるとも考えられるのでは」という子どもたちの頭を刺激する宿題を出し、会場内ではさっそく子ども同士でのやりとりが繰り広げられた。バスの車内でも、車窓から見える風景の変化を解説した。熱函道路の坂道をしばらく上がっていった先に丹那盆地の風景が広がる様子が、火山や地震によって出来上がっていることを実感する手がかりを与えた。

4.2.2.断層を探せ
 伊豆スカイランの玄岳駐車場では、到着時には霧がかかって風景が見えなかったが、子供たちの手元資料に用意した同じ場所からの写真を手がかりに、富士山(大円錐火山)と、箱根火山(カルデラ火山)の形の違いを比較して、かつては箱根火山も富士山と似た形をしていたことを説明。さらに、手前には形成年代がさらに古い湯河原火山や多賀火山の火山斜面があることを、火山学の知見から紹介。先に出した富士山がなぜ高くなるかも説明し、子供たちからは次々に質問が飛んだ。
 幸い、この段階で霧が晴れて徐々に風景が広がってきた。そこで、湯河原火山の火山斜面の途中に「田代盆地」という変な地形があることを注意喚起した。この田代盆地の西縁が丹那断層の断層崖の一部で、過去の断層変位の繰り返しによって盆地が形成されたと考えられている。ここでは、火山が作る斜面が断層によって断ち切られているような部分に気づくように説明をした(写真1)。
 また、丹那盆地の下に走っている丹那トンネルが北伊豆地震で工事中にずれたことを紹介し、丹那盆地のどこを丹那断層が通っているかのポイントだけを教えた。その後、実際の風景などを手がかりにして、手元の写真に断層が通過する場所を線を引いて示すというクイズを実施。子供たちは、チームごとに分かれて手元の写真に線を引いた後、みんなの前で各チームごとに発表をし、講評を受けた。「ここの森の形も変だ」「何となく線が見えた」「丹那盆地がゆがんでいるように見えた」などと、ユニークな説明が相次いだ。

4.2.3.ずれた証拠を探せ
 そのあとは、山をおりて丹那断層公園に移動した。ここは、国の天然記念物に指定された断層のずれが保存されており、北伊豆地震の被害写真などの史料や、丹那・田代周辺盆地模型、断層地下観察室なども整備。当時の農家の畑の石垣、水路、塵捨て場の石組みが最大2・6mの左横ずれを起こしているのが観察できる場所である。
 ここでは、子供たちにどこが何mずれているかを探してもらうクイズを出すことにした。そのために、スタッフが先回りして、ずれの位置を示す標識やずれの解説看板などをすべて模造紙で覆っておいた。子供たちはまず、公園内に設置された丹那盆地付近の立体地形模型で先ほどの玄岳駐車場から見た風景を確認し、地形模型に引いてある断層線の延長上に田代盆地があることや、河川の流路が断層を境に変化していることなどを説明した。その上で、「この断層公園に断層がずれた証拠がある。その証拠と、ずれた長さをチームごとに探して」という問題を出した。単純な問題かと思ったが、看板を隠すとすぐには見つけられず、ずれの長さを調べるときには、芝生の上に寝転がって身長を元に長さを測るなど、真剣に取り組んでいた。
 そのクイズができたチームから、トレンチの断面を見せる地下観察室で断層についての解説をするとともに、断層から揺れがどう伝わるか、断層位置と揺れの強さの関係について解説。断層の直上よりも、そこから離れた狩野川沿いの地盤が悪い地区に被害が集中した北伊豆地震と、野島断層直上では家屋が倒壊しなかったが、やや離れた海岸沿いで家屋が倒壊した兵庫県南部地震の類似などを説明した。

4.2.4.昼食など
 昼食は、丹那盆地にある「酪農王国オラッチェ」という地元で盛んな酪農を売り物にしたレストラン、地ビールやチーズ、バターなどの工場などの複合施設を利用した。同町の第3セクターの株式会社で、特別メニューの提供を受けた。

4.2.5.クッキーの材料で断層模型実験
 昼食後、函南町農村環境改善センターで実験と講義を行った。断層模型実験は、スライドのプラスチックケースの中に、小麦粉とココアを交互に重ねた「地層」を作り、端から地層を押すと「逆断層」が形成される。同センターの調理実習室のテーブルに、各チームごとに分かれて座り、1人1セットずつの実験道具を使って、説明を聞きながら断層模型を作った。大半のスタッフも子供たちと一緒に座り、実験に取り組んだ。
 粒状がそろった粉を敷き固め、ケースの側面からきれいな層が見えるように整え、5層の地層が出来上がったら、端のへらをゆっくり押すと、地層が切れて押されてのし上がり「逆断層」が生じる様子が再現された。押す力や早さによって、さまざまな形の断層や褶曲ができた。スケールは異なるものの地震が地中の圧力で起きることを感じられたはずで、高校生も小学生も真剣な眼差しで実験に取り組んだ。午前中の断層観察で説明を受けていた子供たちからは、「うおー、ほんとだ」「できてる、できてる」「あー、いい感じ」という声が上がった(写真2)。

4.2.6.ペットボトルで液状化実験
 続いて、輪切りにしたペットボトルに水と砂を入れ、撹拌して固めてから側面をたたくと、水が表面に浮き上がってくるという液状化実験を、同センター北側の屋外で実施した。1人1セットの実験道具を用意し、指定した量の水と砂を計って入れ、キャラクターものの消しゴムを砂の上においてよこからたたくと、水がわき出て消しゴムが沈む。実験自体は簡単だが、子供たちは砂を追加したり、水を加えたりしながら、ただ湿った砂をたたくと水がじわっと出てくる不思議さを何度も確認していた。子供たちは「ふしぎだよね」「そういうことなんだ」「これなんにも起こんないよ。あっ水が出てきて倒れるんだ。つまりこういうこと?」と話しながら実験していた。

4.2.7.基礎知識の講義
 ここでは、地震の揺れと液状化、活断層について、火山についての3つの講義を行った。1時間半近い連続講義で、これまでの疲れで寝てしまう子供が出るのではと心配したが、この日の観察や実験を通じて、その場その場で解説してきたことを、再び体系化しての講義に、熱心に耳を傾け、メモを取り、資料をみてくれていた。また、質問を受け付けると、「1度液状化したところは、もう液状化しないのか」、「富士山のまわりにたくさんの湖があるけれど、火山と関係するのか」などと、途切れることなく続き、時間がなくてうち切らざるをえなかった。
 最後に、出来上がった断層模型を持っている一人一人の写真を取り込んだ「なまず博士の認定証」を渡し、この日は終了した。

4.3.セミナーの演出の特色
 ・チーム分け、チーム名とチームの旗
 各ポイントでは、5つのチームに共通の課題を与えて考えさせた。 チーム名には、「チームふじ」、「チームはこね」、「チームおおむろ」、「チームあしたか」、「チームあまぎ」と、周辺の地形を説明するときに登場する火山名を用い、チームごとに用意した旗に、各火山の写真を旗に印刷(写真17)。チームごとに行動するときの目印にし、大勢の知らない同士の児童・生徒がばらばらにならずに、一定のまとまりを作ることができた。途中での人数確認、行動の指示もチーム単位で行え、安全確保が図りやすく、講義の際にも集中できた。

 ・なまずカード(写真3)
 クイズやゲームでの回答に対しては、可愛いなまずの絵を描いた「なまずカード」を与え、集めたカードの枚数を競わせる方式をとった。単に正解だけでなく、専門家でも議論が分かれるような指摘を伴う気の利いた質問や、鋭い視点を持ったユニークな回答には複数枚渡すなどした。カードは個人の質問に渡してもチームのものとし、チームごとの連帯感を醸成するようにした。全体の最後に、カード数を集計してチームごとに割り切れる数まで足し、1人あたり2−4枚をプレゼントした。
 高校生でも小中学生と一緒になまずカード集めに取り組んでいるうちに、チーム対抗の意識も芽生えて、より積極的にプログラムに入り込んでくれた。講義の場で難しい話が続いても、小学生がカード欲しさに次々に質問を考えて講師を質問責めにしてくれるという効果もあり、一方的な講義にならずにすんだ。また、講師側も参加者に対して問いかけがしやすくなった。

 ・1人1セットの実験
 断層模型実験、液状化実験とも、一人に一つずつ実験キットを準備して渡した。それぞれが自分のペースで自分で納得するまで実験に取り組むことができ、自分で何かを発見することができるようにした。

 ・全体としてのストーリー性
 山の上から断層全体や周辺の風景を把握し、地上でその断層が地表に現れた場所を目の当たりにし、断層ってすごいなと思ったところで自分で断層を作る実験をし、その断層がずれたことで発生する地震の揺れで起きる液状化実験をし、好奇心を刺激された上で、まとめの講義を行った。思考の流れができていたところでの講義だからこそ、説明の一つ一つが子供たちに染み込んだ。

 ・「なまず博士」認定証
 閉講式では参加者全員に「なまず博士」の認定証を授与した。断層実験の成果は、それぞれ出来上がりを持ち帰ることができないため、その場でデジタルカメラで撮影した写真をパソコンで取り込んで編集し、認定証に印刷。実験写真を取り込むことで、一人一人がこのスクールをやり遂げたことを明確にできた。

5.子供たちのリアクション
 参加した子供たち全員に感想文などを書いてもらう時間がなく、まとまった分析ができなかった。ただ、この企画を記録し番組化するために取材していたQネットコミュニケーションズ(QNC)という新しい防災専門チャンネルの映像記録に残された発言やインタビュー記録、2日目に実施したパネルディスカッションでパネラーとなった3人の児童生徒に対して前日のプログラム終了時にテーマを与えて発表してもらった内容を紹介する。

・映像記録に残っているプログラム中の子供たちの発言や質問
(富士山と愛鷹山、箱根の違いに関連して)
 愛鷹山や箱根の上に火山が岩を出して富士になるのでは(小学生)
 平らな山で爆発が起こると、溶岩が出てきて小さい山になって、それがいくつも出てきて愛鷹山や箱根になって、それからだんだん大きい山になっていく。富士山になる途中では(小学生)
 溶岩の性質で噴火しても成長できないのでは(という趣旨)(小学生) あしたかや箱根は噴火してへこんだんだけど、富士はなぜは山の形が残っているのか(小学生)

・昼食後のインタビュー
 わけ分かんないけど、面白すぎた。わけ分かんなくて、意見が言えなくて、高校生の人が何かいってくれてそうかと思った。いい質問をしてくれてた(小学生)。
 断層のずれとかが、びっくりした。いままでに見たことはなかった。山の上からは、一応分かった。他の人の質問とかでよく分かったりした(中学生)。
 全部面白かった。説明はちょっと分かりにくかった。でも、質問できなかった(小学生)。
 地震とか興味はあまりなかったけど、参加して面白くて良かった。景色がとても良かった。説明も分かりやすかった。ゲームとかも楽しい(小学生)。
 楽しい。なまずカードをもらったときがうれしい。ここまで7枚ゲットした。がんばるぞ、おー(小学生2人で)。

・終了後のインタビュー
 阿蘇に昔行ったときにどうしてあの形になったのかと思ったけど、その謎が分かった。写真とか使ってとても分かりやすかった(中学生)。
 楽しかった(小学生)。
 楽しくて、良く分かりました。実験はちょっとずれたけど、家でやってみたい。液状化の実験は最初失敗したけど、教えてもらってうまくいった(小学生)。
 たくさん質問して1枚ずつゲットした。質問の答えは分かりやすかったけど、長かったのであまり書けなかった。でも頭に入れた(小学生)。

・パネルディスカッションでの発表
 小学5年生(函南町)テーマ「みなれた景色に何かが見えた」
 小3まで丹那で育ち、幼稚園や小学校の遠足で、歩いて丹那断層に行ったが、断層の意味は分からなかった。昨日の説明で初めて断層というものが分かった。驚いたことに田代から丹那まで約3キロが一瞬にしてずれてしまい、同じ場所にあった石が大きく離れ、地面の高さも変化してしまったこと。僕が思うにはものすごく大きいブルドーザーにしても、ダイナマイトを使っても人間の力では絶対できないことだと思う。だから地震の力はすごいもので恐ろしいものだと思った。今まで、地震があっても揺れているときは怖いと思ってすぐこの怖さを忘れてしまっていたが、丹那断層のひみつに参加して良かったと思った。地震の力がすごいものだと分かったからだ。これからはもっともっと地震について勉強していきたいと思う。

 中学1年生(神奈川県藤沢市)テーマ「ぼくはこう感じた。地震や火山と人間」
 僕は最初、玄岳から丹那盆地を見下ろしたときに、こんなところで地震があったのかなあと思った。でも、あそこに丹那断層があるんだなと言うことは、先生たちの話を聞いたり、自分たちで断層の線を入れてみたことで想像できたが、実際にどのくらい動いたのかなということを見に行きたいと思った。そして実際、断層公園で1・5メートルぐらいの左横ずれの断層を見学した。けれども地震の時に断層が動いて危ないからといって、断層から離れたところに家を建てても、地盤が弱いところでは地震の被害が大きいので私たちはそういうことを考えて家を建てなければいけないと思った。
 また、富士山は火山の中では若い火山だと言うことを聞いた。富士のまわりの箱根や愛鷹山はかなり歳をとった火山だった。富士山が若いと言っても10万年なので、その中で何回も噴火して今のあの形になったのはすごいと思った。大昔は箱根や愛鷹山が今の富士山のような形だったと言うことも驚いた。
 液状化については、最初たかが水がと思っていたが、液状化の実験をやって、水って恐ろしいな、すごい力を持っているんだなと思った。液状化を防ぐには埋め立て地などを減らすのがいちばんいいのではと思った。最後にこの地震火山サマースクールに参加して、地震や火山と人とのことなどが分かる良い経験をしたと思う。

 高校2年生(静岡県浜松市)テーマ「地震や火山とともに生きるために」
 昨日の地震火山子供サマースクールは、僕たちにとって非常に有意義な体験となった。普段身近に感じていながら、なかなかその存在を実感できなかった丹那断層を、諸先生方の丁寧な説明と明快な資料を交えて山の上から観察することにより、特徴、規模、脅威をはっきりと認識することができた。さらにそれと同時に、先生方は自然と向き合い、自然をじっくりと観察するという姿勢の重要さ、おもしろさを僕たちに気づかせてくれた。丹那断層公園では、大きな横ずれ断層が地震当時のまま保存された石組み遺構のずれにより、一目で分かり、断層活動により引き起こされた大地震の恐ろしさをまの辺りにすることができた。ここでも、先生方の説明が大きな参考になった。
 断層模型実験や液状化実験も僕たちの興味を大きくそそるものだった。しかも、その材料は身近に存在するものばかりで、正直うまくできるか半信半疑だった。それだけに逆断層を再現することができたときには、感動した。これらの実験はやっていて楽しかっただけでなく、結果として逆断層形成、液状化発生のメカニズムまで理解することができ、すばらしいものだった。
 今回のサマースクールでいちばん印象に残ったのは、何と言っても諸先生方の説明だったと思う。返答するのに困難だと思われた僕たちの質問にも臨機応変に対処して下さり、大変勉強になった。富士山や愛鷹山など火山の形状の決定要因や、これからの火山の動向など、火山に関する知識も与えて下さったり、近い将来静岡県を中心とした地域で発生すると言われている大規模地震についても説明して下さった。
 その中で、僕が最も印象を受けたのは、地震はどうせ起こるのだから、それに対して防災準備をしておいて損はないと言う言葉だった。地震の被害を最低限に押さえるためには、日頃からの地震対策、地震後の対処、人々の協力が大切だと思う。そのためには、地震発生の際の負傷者を助けるための応急処置法を身につけたり、知的、心的障害がある人や、乳幼児、高齢者などいわゆる災害弱者を保護するといった行為を心がけるべきだと感じた。今回の地震火山子供サマースクールに参加して、地震火山に対する意識が以前より遙かに高まったと思う。この体験を今後の生活に行かしていきたいと思う。

・パネルでの発言
 遠足の時に説明は何もなかった。遊んでいた。ここは丹那断層だよとは言われた。丸い輪だったのは昨日知った(小学生)
 クイズ方式は何より良かった。あのなまずカード。いい質問になまずカードをあげたのは子供たちの質問意欲をかき立てたと思う。僕もはじめ正直、こんなのもらってうれしいかなと思ったけど、やっていくうちにむきになって一番集めた(高校生)。

6.シンポジウム
 第2日の8月21日、12:30〜17:30まで、「地震・火山の理解と防災教育に関するシンポジウム」を行った。児童生徒だけでなく広く地元の一般市民も対象とし、地震・火山にかんする基礎知識を普及するとともに、新しい魅力的な防災教育のあり方を模索することを目的とした。会場は函南町中央公民館の大ホール(600人収容)で、約100人の参加があった。
 シンポジウムでは、3件の普及講演:山崎晴雄「活断層って何だろう」、山岡耕春「地震はなぜ起きるのか」、小山真人「火山の見つけ方・つきあい方」の後、中川和之がコーディネータとなって「地震や火山と向き合う文化を」と題したパネルディスカッションをおこなった。パネリストには数越達也、武村雅之の2人のほか、第1日のサマースクールに参加した児童生徒3人(小中高各1人)が加わり、サマースクールの報告会も兼ねた催しとした。
 講演に先立ち、函南町の町長にあいさつをいただき、実行委員側から桑原央治の開会のあいさつをして講演に移った。

6.1.講演
 講演の概要は以下であり,内容は高度だが小学生にも理解できる平易な解説をこころざしたものであった.講演要旨は前出のホームページに公開されている.

山崎晴雄「活断層って何だろう」
1)活断層ってなに? どうしてみんなこわがるの
2)神戸の大地震と野島断層
3)北伊豆地震と丹那(たんな)断層
4)活断層って本当に恐ろしいの? なにが恐ろしいの?
5)活断層のたまもの、日本の自然とわたしたちの生活 活断層と共生していこう

山岡耕春「地震はなぜ起きるのか」
1)地震の原因
2)地震のおきる場所
3)地震に前ぶれはあるの? 予知はできるの?
4)長い目でみた地震の予測
5)東海地震のこと

小山真人「火山の見つけ方・つきあい方」
1)静岡県に火山なんかあるの
2)どこにあるの
3)むかし,どんなことがあったの
4)これからどうなるの
5)火山と,どうつきあえばいいの

6.2.パネルディスカッション
 パネルディスカッションでは、数越達也が、阪神・淡路大震災で被災した兵庫県芦屋市にある県立芦屋高校で、生徒と一緒に行っている「震災と復興の記録」ホームページの開設を通じた地震・防災教育の実践を報告。武村雅之は、自らが地震と揺れの研究を進める中で、その知識の普及が必要との気持ちに駆られ、自分の子供が通う学校に働きかけ、地震と防災についての講演の機会を得た体験を報告した。
 その後、前日のスクールの概要を紹介した後、児童生徒3人が発表し、会場の参加者を交えた防災教育のあり方を考えるやりとりを行った。全体の参加者は決して多くなかったが、ここでも会場の参加者と講師陣らとの発言は途切れず、時間を30分以上オーバーした。

6.3.まとめ
 最後に、実行委員長の小山真人が、「防災教育の問題」と題してまとめを行った。
 これまでの防災教育はおもに避難訓練や消火訓練の一環としてなされ、戦術的知識やノウハウの伝達が中心となっており、防災意識の低下に対しては、自然災害の危険性を訴えることで恐怖を与えて仕方なく防災対策を施させる手法が取らせることが多かったのではないか。それでは、災害に対する想像力の欠如(桑原、1997)は否めない。最大の問題は、自然現象のしくみやそれが生み出す自然災害の本質を教えてこなかったことではないだろうか。
 自然災害の本質とは,(1)自然の時間は人間生活の時間とは異なること、(2)人間にとっては、自然の恵みの方がはるかに多いこと、(3)災害は一瞬であるが、自然の恵みは一瞬の災害の上に成り立っていること、(4)災害は自然の理であること、(5)非常に低頻度の大災害は、おきたら諦めるしかないこと−などである。以上のような自然災害の本質さえ理解していれば,「無意味の苦しみ」(桑原、1997)は生じず,極端な例ではあるが非常に大規模な被害を及ぼす火山の山体崩壊などが突然起きた場合でも、納得して死を迎えられるのが人間であろうと思われる。
 さまざまな自然観察が行われているが、動物や植物を対象としたものが大半だろう。なぜ、バードウオッチングのように、地形や地質ウオッチングは成り立たないのだろうか。フランスでは、古い火山体を切り崩した採石場跡地に火山の内部構造を示すさまざまな掲示板が設置され観光に利用されているなど、市民が火山ウオッチングできるような社会になっている(小山(1998)SCiaS 4月3日号)。日本人もきっとそのような知的な楽しみを理解できるはずだ.今回の企画が,そのような自然への親しみ方,ひいては「自然の本質を理解する文化」の形成をめざす防災教育実践の一助になればと考えている。

7.反省と課題
 ここでは、主にサマースクールについての反省と課題点を上げる。
 事前準備の段階では、何度かの顔合わせをしての議論、3度の現地下見に加え、電子メールでの議論を最大限活用した。当初は意見がまとまりにくく、なかなか準備が進まなかった時期もあったが、実験的な試みなのでやむを得なかっただろう。今後も継続して各地で同様なプログラムを実施したいと考える声が多いが、次のようなことが課題となるだろう。

 (1)地元自治体との協力関係
 今回、函南町と函南町教委からの全面的な協力があった。事前の案内や、当日の場所・移動手段の確保だけでなく、応援職員も配置していただいた。地元自治体の協力があってこそ今回の計画が成功したと言えるだろう。とくに,地元自治体と信頼関係がある研究者が窓口になることが有効である。場合によっては自治体主催とし、内容面を今回の実行委員会のような枠組みで作り上げることもあってよいだろう。

 (2)地元の「素材」に精通した研究者が不可欠
 今回は、伊豆半島周辺の火山や丹那断層という今回の現場の「素材」に精通した研究者が実行委員としてプログラム作りに中心的に参画し、全体の流れも作ることができたし、思いもよらない質問にも余裕を持って答えられた。(1)で述べた地元自治体との関係も、その地域の「素材」に精通した研究者が中心になることで,よりよいものとなる。

 (3)子供たちの感想などの集約を
 今回では、参加した児童生徒に感想や意見を書いてもらうプログラムを用意しなかった。幸い、2日目のパネルディスカッションでの生徒3人の報告や、QNCのインタビューテープなどで一部を知ることができるが、成果と課題をまとめるために今後は実施すべきだろう。

 (4)実施時期の選択
 夏休みは、特に小学生にとって自由研究の課題があり、この種の企画への参加動機を持ちやすい時期である。ただ、同時期には競合行事も多く,同じ夏休みならより早期の実施が望まれる。春休みは年度末のために委員の日程を調整するのが難しく、冬休みは戸外での活動に制約がある。通常の週末は、学校教員の参加が難しい。これらの要因の中から、その企画に応じた時期を選定する必要がある。

 (5)事前広報の重要性
 企画のユニークさゆえ、当初は40人の募集枠が早期に満員になるのではと懸念したが、残念ながら集まった人数は募集枠に満たなかった。今回は、函南町教委が町内の小学校全校の5、6年生にチラシを配布し、静岡県の地震予知観測学習モデル校と静岡県地学会の運営委員会にも呼びかけた。また、三島市役所の記者クラブへの資料提供、同町を通じての伊豆日々新聞への情報提供をし事前広報を依頼。ホームページでも情報発信し、両学会のページからのリンクもしたが、情報が十分行き届かなかったと思われる。
 一方、神奈川県小田原市の生命の星・地球博物館で本企画の募集要項を配布したが、その情報によって同県真鶴町からの4人の参加があったと思われる。今後は、この種の行事に関心がありそうな子どもが集まる場も通じての事前広報を,かなり早い時期からもっと行う必要があるだろう。

 謝辞:本プランの企画・実施にあたって、棚井郁夫(函南町教委)、小澤邦雄・岩田孝仁・法月義久(静岡県防災局)、武村雅之(鹿島建設)、宮嶋衛次(北海道立理科教育センター)、川端信正(静岡総研防災情報研究所)、生島佳代子(静岡大院生)、関谷 央・小池郁美(静岡大学生)の方々に大変お世話になりました。映像記録を残してくれたQNCの秋田勝啓ら3人の協力にも感謝します。
 最後に玄岳の駐車場で、プログラム中に霧が晴れるというドラマチックな舞台を用意してくれた伊豆の自然に感謝いたします。あのシーンで、企画の成功を確信しました。

文 献
(1)桑原央治:科学、67、16(1997);大震災以後「科学」編集部編、岩波書店(1998)にも補足・収録
(2)小山真人:1998年地域安全学会論文報告集,No.8,40-45;科学、69、256(1999)
(3)中川和之:都市政策論集、19、「生活復興の理論と実践」神戸都市問題研究所編、(1999)
(4)岡本義雄:なゐふる、13、7(1999)
(5)数越達也:第2回視聴覚教育総合全国大会など、(1998)
(6)田方郡教育長会・校長会・教育研究会:昭和5年の北伊豆地震に学ぶ、田方郡町村会発行(1981)


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