富士山歴史噴火総解説(第2版,2007年3月)

小山真人

静岡大学教育学部総合科学教室

Database of eruptions and other activities of Fuji Volcano, Japan,
based on historical records since AD781

Masato Koyama

Faculty of Education, Shizuoka University

Abstract
Fifty-six historical records, which describe abnormal phenomena relating (or possibly relating) to the activity of Fuji Volcano, Japan, were collected and re-examined according to the reliability of each document. The historical records can be classified into the following 9 groups: (1) reliable records of eruptions (10 records), (2) possible records of eruptions (6 records), (3) reliable records of volcanic activities except eruptions (4 records), (4) possible records of volcanic activities except eruptions (3 records), (5) reliable records but not clearly related to volcanic activities of Fuji Volcano (5 records), (6) reliable records related to other volcanoes (1 record), (7) reliable records of non-volcanic phenomena (12 records), (8) possible records of non-volcanic phenomena (3 records), and (9) fake records generated by mistakes or misunderstanding by historians or volcanologists (12 records). Removing the records of the groups 6-9, the most reliable database of historical activity of Fuji Volcano was presented.
Key words: Fuji Volcano, historical record, historical eruption, database, reliability check

このデータベースは,以下の論文にもとづいて作ったものです.ほとんどがこれらの論文記述をそのまま再構成したものですが,省略した箇所もあります.

 小山真人(1998)歴史時代の富士山噴火史の再検討.火山,43,323-347.
 小山真人(2007)富士山の歴史噴火総覧.荒牧重雄・藤井敏嗣・中田節也・宮地直道編:富士火山,山梨県環境科学研究所,119-136.


1.はじめに
2.史料にもとづく富士山の歴史噴火研究史
3.噴火各論

 以下に,筆者が知りえた歴史時代の富士火山に関係する天変地異記録のすべて(計56記事)を年代順にとりあげ,原史料の出自や性格からその信頼性を吟味した.
 史料を読むにあたっては,武者(1941,1943a,1943b)などの非歴史学者によって編纂された史料集を読むことをできる限り避け,歴史学者の校訂を受けた原史料の翻刻本の閲覧に努めた.原史料が閲覧できなかったものについては引用元を明記した.
 史料の吟味結果にもとづいて天変地異記録を次の9グループに分け,本文中の小見出しの頭に記号で表した.
(1)●:信頼性の高い噴火記事(10記事):天応元年(781),延暦十九〜二十一年(800〜802),貞観六〜七年(864〜866初頭),承平七年(937),長保元年(999),長元五年末(1033初頭),永保三年(1083),永享七年(1435または1436初頭),永正八年(1511),宝永四年(1707)
(2)○:信頼性の低い噴火記事(6記事):天長三年(826または827初頭),貞観十二年(870),天暦六年(952),正暦四年(993),寛仁元年(1017),応永三十四年(1427)
(3)★:信頼性の高い火山関連現象(噴火以外)の記事(4記事):寛仁四年(1020),元禄十六年末〜十七年初頭(1704),宝永五年(1708),大正12年(1923)
(4)☆:信頼性の低い火山関連現象(噴火以外)の記事(3記事):貞観十七年(875),明治28年(1895),大正3年(1914)
(5)▲:信頼性の高い史料中の記事であるが,噴火または他の火山関連現象の記録とは断定できないもの(5記事):宝永五〜六年(1708〜1709),文政八年(1825),嘉永七年(安政元年)(1854〜1855),大正15年(1926),昭和62年(1987)
(6)◆:富士山以外の火山の噴火記事(1記事):天永三年(1112)
(7)■:信頼性の高い記事であるが,火山活動に関連しない現象の記述(12記事):天文十四年(1545),天文二十三年(1554),永禄二年(1559および1560初頭),明和七年(1770),寛政四年(1792),寛政六年(1794),享和元年(1801),天保五年(1834),天保八年(1837),天保九年(1838),安政七年(1860),明治24年(1891)
(8)□:信頼性の低い記事であり,かつ火山活動に関連しない現象の記述(3記事):養和元年(1181または1182初頭),元弘元年(1331),文化六年(1809)
(9)×:誤記・誤解等によって生じた誤りと考えられるもの(12記事):延暦十八年(799),承和年間(834〜848),仁寿三年(853),天安二年(858),貞観元年(859),承平二年(932),長元五年(1032),永禄三年(1560)または四年(1561),寛永四年(1627),元禄十三年(1700),宝永五年(1708),昭和14年(1939)

 史料の出自や性格,史料執筆者の略歴については,主として国史大辞典(1979-1997吉川弘文館刊),補訂版国書総目録(1989-1991岩波書店刊)および国書人名辞典(1993-1999岩波書店刊)を参考にした.
 なお,歴史時代の富士山噴火記録を多数含む史料として「宮下文書」がある.「宮下文書」は山梨県富士吉田市の宮下家につたわる一連の古記録・古文書・絵図などの総称であり,歴史学者からはふつう偽書としてみなされている史料群である(つじ,1992;小山,1998b).ただし,「宮下文書」中の延暦噴火の記述を詳しく検討した小山(1998b)は,「宮下文書」が口碑伝承や消滅文書中で伝えられた真実の断片を拾っている可能性を指摘した(後述の「延暦十九〜二十一年噴火」の項参照).よって,本論では「宮下文書」を完全な偽書として却下せず,信頼性の低い参考資料として取り上げた.なお,本論で用いた「宮下文書」の史料は「宮下文書」原文の影印版である「神伝富士古文献大成」(1986年八幡書店刊)から直接その記述を翻刻したものである(小山,1998a,b).
 なお,本論中の西暦年月日は早川・小山(1997)と早川・他(2005)の勧告にしたがって1582年のグレゴリオ改暦以前をユリウス暦で表記し,旧暦年月日から西暦年月日への換算は日本暦日原典第4版(内田,1992)にもとづいた.西暦換算を三正綜覧(内務省地理局,1880)にもとづいている研究論文が今日でも散見されるが,内田(1992)が述べている通り,それは適当でない.また,和暦年は西暦年と厳密には一致しないため,たとえば延暦十九年は800年1月30日〜801年1月17日の期間に相当するが,月日まで問題にしない場合は便宜上「延暦十九年(800)」のようにカッコ内に西暦年を併記した.

注:〓はJIS水準に存在しない漢字であり,それに続く{ }内に部首の組み合せを示しますから,印刷の際に対応する活字に直してください.また人名・地名・史料名に続くカッコ内のひらがなは,ルビを表しています.

宝亀十一年(780)以前の記事について

●天応元年(781)噴火
×延暦十八年(799)
●延暦十九〜二十一年(800〜802)噴火
○天長三年(826または827初頭)噴火?
×承和年間(834〜848)
×仁寿三年(853),天安二年(858),貞観元年(859)
●貞観六〜七年(864〜866初頭)噴火
○貞観十二年(870)噴火?
☆貞観十七年(875)噴気?
×承平二年(932)
●承平七年(937)噴火
○天暦六年(952)噴火?
○正暦四年(993)噴火?
●長保元年(999)噴火
○寛仁元年(1017)噴火?
★寛仁四年(1020)火映
×長元五年(1032)
●長元五年末(1033初頭)噴火
●永保三年(1083)噴火
◆天永三年(1112)伊豆七島の噴火
□養和元年(1181または1182初頭)崩壊?
□元弘元年(1331)地震と崩壊?
○応永三十四年(1427)噴火?
●永享七年(1435または1436初頭)噴火
●永正八年(1511)噴火
■天文十四年(1545)土石流
■天文二十三年(1554)土石流
■永禄二年(1559および1560初頭)土石流
×永禄三年(1560)または四年(1561)
×寛永四年(1627)
×元禄十三年(1700)
★元禄十六年末〜十七年初頭(1704)鳴動
●宝永四年(1707)噴火
×宝永五年(1708)
★宝永五年(1708)鳴動
▲宝永五〜六年(1708〜1709)鳴動・降灰?
■明和七年(1770)赤気
■寛政四年(1792)地震と崩壊
■寛政六年(1794)土石流
■享和元年(1801)土石流
□文化六年(1809)崩壊?
▲文政八年(1825)ときおり噴気と鳴動
■天保五年(1834)土石流
■天保八年(1837)土石流
■天保九年(1838)土石流
▲嘉永七年(安政元年)(1854〜1855初頭)噴火?
■安政七年(1860)土石流
■明治24年(1891)地震動による崩壊
☆明治28年(1895)噴気増す?
☆大正3年(1914)山頂にあらたな亀裂と噴気?
★大正12年(1923)あらたな噴気
▲大正15年(1926)富士山で被害地震
×昭和14年(1939)群発地震
▲昭和62年(1987)山頂のみで有感地震

 

4.まとめ

Fig.1:噴火年表

謝 辞

引 用 文 献


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