伊豆新聞連載記事(2007年12月2日)

伊豆の大地の物語(14)

白浜層群の時代(3)堂ヶ島の地層美(上)

火山学者 小山真人

 山がちの地形をもつ伊豆半島では、海岸の多くが崖(がけ)となっている。中には高さ200メートルを超える崖もある。そうした崖には、たいていの場合、さまざまな地層があらわになっている。もちろん地層は道路や川ぞいの崖でも見られるが、海岸の崖は波浪や風雨で洗われることによって、いつも新鮮な表面が観察できる絶好の場所である。伊豆半島西海岸の有名な景勝地である堂ヶ島海岸(西伊豆町)も、そのような場所のひとつである。
 南北に延々と伸びる伊豆半島西海岸の中で、堂ヶ島海岸を有数の観光地として成り立たせている大きな理由のひとつは、おそらく崖に見られる地層がきわだって美しいためであろう。とくに有名な天窓洞(てんそうどう)付近の白い地層は、白色の軽石が海底にたまってできた軽石凝灰岩(かるいしぎょうかいがん)である。この地層には、まるで砂丘の波紋のような美しい縞(しま)が刻まれている。この縞は、斜交層理(しゃこうそうり)と呼ばれるもので、波や海流によって岩片が移動・再配列して作られた模様である。
 この斜交層理をもつ地層の下につづく崖に注目してほしい。海面付近から崖の上部に向かって、含まれる岩片や岩塊(がんかい)の大きさが徐々に細かくなっているのがわかる。これは、本連載の第4回で説明した水底土石流(すいていどせきりゅう)の特徴である。土石が水と入り交じって一気に押し寄せる流れが土石流であり、海底や湖底で起きる場合は水底土石流と呼ばれる。水底土石流が流れる際には、重くて大きい岩が先に沈み、軽くて小さい土砂は後から降りつもる。このため上部ほど岩の大きさが小さくなる.さらにその上に降り積もった軽石に,波や海流の作用が働いて斜交層理ができたのである。
 堂ヶ島の水底土石流の中に含まれる大きな岩塊(がんかい)の内部は、岩石の磁気測定にもとづく熱履歴(りれき)の分析によって、海底にたまった当初は摂氏(せっし)450度から500度もの高温であった証拠が得られている。これによって、海底火山の噴火が直接もたらした地層であることが証明されている。

堂ヶ島海岸の崖に見られる水底土石流(すいていどせきりゅう)の地層。含まれる岩片の大きさが、下から上に向かって細かくなっている。最上部には斜交層理(しゃこうそうり)をもつ軽石凝灰岩(かるいしぎょうかいがん)が見えている。


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