東日本沖で起きた巨大地震について

静岡大学防災総合センター教授 小山真人

(2011年3月21日記、23-24日リンク追加、24日富士山と延宝地震について追記、30日いくつかの補足とリンク修正・追加、4月2日修正と補足、4月17日補足と「ふじのくに防災学講座」での講演スライドを追加、6月12日図の追加)


4月16日「ふじのくに防災学講座」での講演スライド「東日本大震災を起こした地震とその影響」(PDF)(加筆修正第2版)

5月24日地球惑星科学連合学会での口頭発表スライド「地震・火山に関する防災情報の実効性検証の現状と課題」(PDF)


大変なことが起きてしまいました。日本海溝に沿った三陸沖から茨城沖までのすべてのプレート沈み込み境界が同時に破壊し、マグニチュード(以下、M)9.0という超巨大地震が起きました(図1)。

この震源域の北に隣接する千島沖から十勝沖までの領域では、数十年に一度程度、M8〜8.5程度のプレート境界地震が比較的規則正しく起きてきた場所ですが、今回の震源域内の三陸沖や宮城沖では歴史上M7〜8.5程度の地震は見られるものの、その規則性や頻度は不明瞭でした。その南側の福島沖と茨城沖にいたっては歴史上M7〜7.5程度の地震がぱらぱらとある程度でした(地震調査研究推進本部による海溝型地震の長期評価など)。

一方で、17世紀前半より前の自然災害の文書記録には不備があることが知られています。こうした不備を補うために、津波堆積物や地割れ・噴砂等の物的証拠を調べて過去の地震や津波を調べる研究がなされています。これらの研究によれば、東日本の太平洋側の海岸地域がほぼ450〜800年間隔で今回の津波と同規模の津波に襲われてきたことがわかり始めていました。

つまり、おおざっぱに言えば500〜1000年に1度程度の低頻度大規模災害が今回起きたのです。21世紀なかばくらいまでに東海・東南海・南海地震の同時発生が心配されていましたが、それ以上のことが東日本太平洋岸の沖で先に起きてしまったのです。

さらに、これも一部の学者の間で懸念されていた「原発震災」が、福島原発で本当に発生してしまいました。原発震災はまだ進行中で、全く予断を許さない状況が続いています。こうした中で大規模余震や続発地震・津波が起き、原発周辺に再び被害を与えて収拾がつかなくなることが今もっとも心配です。
(参考:1923年大正関東地震の後にはM7.1〜7.6の大規模余震が6回起きました。そのうち5回は数日の間に生じましたが、6回めは本震から4ヶ月半後に起きました:中央防災会議報告書の図2-17。1854年安政東海地震の最大余震(M7.0〜7.5)は本震から約10ヶ月後に起きました:宇佐美龍夫(2003)「最新版被害地震総覧」東大出版会170-171ページ)

また、今回の地震では、三陸〜茨城沖にある南北500kmにおよぶ巨大な震源断層面が最大30mほどずれ動きました。さらに、地震後も震源断層は安定化せず、「余効変動」と呼ばれるゆっくりとした断層運動が継続しており、その一部は震源域の周囲にも洩れ出しているように見えます。(国土地理院

こうした一連の断層運動は、一部の場所で地殻の歪(ひずみ)を解放させる一方で、別の場所では逆に歪を蓄積させることがよく知られています。東日本全体の地殻歪が再配列・不安定化したのです。(参考:地学雑誌「地震・火山噴火活動の相関とトリガリング」特集号

こうした歪変化は、一部の地震や火山噴火を促進させる影響を与えるため、さっそく富士山の真下で3月15日夜の地震(M6.4)を引き起こしました。この地震は富士山のマグマだまりがあると推定される場所の直近で起きたため、今後1-2ヶ月間くらいは富士山の活動を注意深く見守る必要があります。
(参考:1707年10月4日に起きた宝永東海・南海地震の49日後の12月16日から16日間にわたって富士山宝永噴火が起きました。地震によって引き金を引かれた噴火の典型例と考えられています。中央防災会議報告書「富士山宝永噴火」)

さらに茨城沖の南側に横たわる房総沖のプレート境界でのM8級の続発地震も心配ですし(実際に、この領域では1677年にM8級とされる延宝津波地震が発生しましたが、くり返し間隔が不明)、関東平野の内陸直下の地震に与える影響も懸念されます。こうした歪の再配列にともなう地震や火山噴火が、今後数年かけて東日本全体で起きていくことになるでしょう。
(房総沖についての参考文献:地震調査研究推進本部「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価の一部改訂について」。月刊地球2003年5月号「三陸〜房総沖津波地震-今後30年間に起る確率20%-」海洋出版)

実際にインドネシアでは、2004年スマトラ沖地震(M9.1)の南側に隣接したプレート境界で、3ヶ月後にM8.6の大地震と大津波が生じました(図2)。その後も、M8級の大地震が何度か引き続いて今日に至っています(東大地震研リンク先参照)。こうした状況が今後日本でも続くことが懸念されます。

つまり、日本の地殻は、言わばパンドラの箱が開いてしまった状態にあります。これまでの地学的に平和で安定した時代は終わりを告げたと認識し、どうか頭を切り替え、限られた資源とマンパワーを有効に配分してください。そして、住民全員が十分な防災対策をしつつ、この長い未曾有の国難を乗り越えるために、それぞれの持ち場で自分の培った力を存分に発揮してください。私も自分ができることを遂行していきたいと思います。

京都大学防災研究所遠田さんによる「東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化」は、この巨大地震が引き起こした歪の再配列によって今後日本のどこでどのようなタイプの地震が促進されたのか、あるいは抑制されたのかを見極めるための良い目安になっています。

当面警戒すべき誘発地震のタイプと最大規模について図3にまとめてみました。

参考リンク:

過去に起きた大きな地震の余震(東大地震研)(スマトラ沖地震やチリ地震後の余震・続発地震発生の時系列、今回との比較)

この巨大地震の地震像についてのわかりやすい解説(静岡大学理学部地球科学科)

防災科学技術研究所の岡田義光理事長による今回の地震の解説(房総沖や内陸での誘発地震、火山噴火の連動も警告)

産総研石川有三さんのWebページ(今回の地震像、スマトラ沖地震後の余震・続発地震発生の時系列)

地震調査研究推進本部による海溝型地震の長期評価

京都大学防災研究所遠田さんによる「東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化」

大地震発生による静的応力変化が周辺の地震を誘発させるメカニズムの解説(産総研)

今回の地震にともなう地震活動変化(京大防災研)

  東北地方太平洋沖地震による中部地方における地震発生促進の可能性の検討(名古屋大学)

  地学雑誌「地震・火山噴火活動の相関とトリガリング」特集号

  緊急寄稿『地層が訴えていた巨大津波の切迫性』(産総研・宍倉正展)

  平安の人々が見た巨大津波を再現する(産総研・宍倉ほか)

  産総研活断層・地震研究センターの研究成果

 

図1 日本付近のプレート境界と、東日本沖巨大地震の震源断層

 

図2 スマトラ沖地震の後で起きたこととの比較(東大地震研も参照)

 

図3 当面警戒すべき誘発地震のタイプと最大規模


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